A.被相続人が遺言書を残している場合であっても、当初から弁護士などの専門家が遺言執行者として選任されているとは限りません。
そして、遺言書の内容によっては、遺言執行者の選任をしないまま、相続人がその内容を執行するということもあります。
このような場合で遺贈を受けた者は、相続人にその遺贈の執行を頼むことになり、その交渉等を弁護士に依頼することが考えられます。
しかし、相続人による任意の執行がスムーズに行かない場合には、遺贈を受けた者は遺言執行者の選任申立をすることで遺贈の執行を受けるという手段をとることができます。
そうすると、この遺贈を受けた者は遺言執行者の選任申立の依頼を既に依頼している弁護士に依頼するのが通常でしょう。このような場合に、当該弁護士は遺言執行者になることが弁護士倫理上問題があるかというのがここでの問題です。

参考となる事例として、「自由と正義」の平成20年2月号に以下のようなものがありましたので、紹介します。

 被懲戒者は、2002年2月14日、懲戒請求者から、同人の父Aを被相続人とする兄弟4名(内1名は代襲者)の相続事件について相談を受けた。Aは特定財産についての相続人の指定の他、長男Bの相続排除を内容とする遺言書を残していたため、懲戒請求者は被懲戒者に対し、遺産の調査と、Bに対しては相続放棄を求める内容での遺産分割協議を依頼し、同月28日に着手金50万円を、同日から同年5月21日までの間に出張旅費・日当として合計金22万5280円を支払った。
被懲戒者は、同月22日、懲戒請求者に被懲戒者を候補者とする遺言執行者選任申立をさせ、同年7月5日に遺言執行者に選任され、一方、同年6月27日に開かれたAの遺言書の検認期日には懲戒請求者の代理人として出頭し、同年9月4日には、遺言執行者としてBの推定相続人排除の申立(後日却下)を行った。
その後、懲戒請求者から、2003年1月18日付手紙により、遺言執行者の辞任及び着手金の返還を求められ、被懲戒者は同年3月27日、遺言執行者の辞任の許可の申立を行ったが、同年10月30日却下された。また、被懲戒者は、2005年6月6日、遺言執行者として、遺産分割調停を申し立てた。
特定の相続人から依頼を受けた代理人弁護士は、当該相続人の利益をはかるべき行動する職務上の義務があり、一方、遺言執行者は特定の相続人の立場に偏することなく中立的立場で職務を遂行することが期待されており、両者の立場を同時に兼併することは利益相反であり、廃止前の弁護士倫理第26条第2号に反する。
また、懲戒請求者に対し、上記の両者の立場の兼併について説明義務を尽くさず、その不利益を理解させないまま受任したことは不適切である。
被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項の弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

懲戒の種別  戒告

(参照)弁護士職務基本規程27条、28条は旧弁護士倫理26条を基につくられたものである。

このような事例から考えると、兼併をしていないとしても、一方当事者から既に遺産分割等の依頼を受けていた場合において、その後遺言執行者になるということは弁護士職務基本規程27条、28条に該当することとなり、懲戒の対象になるおそれがあると考えておくべきではないかと思われる。

したがって、上記の質問に対する答えとしては、既に交渉を依頼していた弁護士に遺言執行者になってもらうということには弁護士倫理上の問題があるということになる。
(なお、これらは当職の私見に過ぎない。)